(1)立体道路制度創設の背景
1980年代後半、大都市地域を中心として道路渋滞が激化する中で道路改善ニーズが切実となり、道路事業進捗を図ることが急務になっていました。
その一方で、幹線道路の整備は、用地費の高騰や代替地の取得難により道路用地の取得が困難であり、事業が円滑に進みませんでした。
そこで、こうした市街地の幹線道路の整備と併せ、良好な市街地環境を維持しつつ適正かつ合理的な土地利用を促進するため、その周辺地域を含めて一体的かつ総合的な整備を行う必要がありました。
(2)立体道路制度の創設と適用範囲拡大の経緯
しかしながら、以下の法制度では、道路の上下空間における建築物の建築は、適正な道路管理及び良好な市街地環境を確保する観点から原則禁止されています。
(道路法)
- 道路の区域内については、私権を行使することができない。
- 道路の上下空間における建築物の設置は例外的にしか認められていない。
(建築基準法)
- 道路内に建築物を建築できる場合が極めて限られ、建築できる場合でも特定行政庁の許可が必要
このため、平成元年に道路法、都市計画法、建築基準法等を改正し、道路と建築物等を一体的に整備するための立体道路制度が創設されました。
(道路法第47条の6 ※現在は第47条の7)
- 道路の新設又は改築を行う場合において、道路の区域を空間又は地下について上下の範囲を定めたものとすることができる。
(都市計画法第12条の11)
- 道路(自動車のみの交通の用に供するもの及び自動車の沿道への出入りができない高架その他の構造のものに限る。)の整備と併せて建築物等の整備を一体的に行うことが適切であると認められるときは、道路の区域のうち、建築物の敷地として併せて利用すべき区域を定めることができる。
(建築基準法第44条1項3号)
- 地区計画の区域内の自動車のみの交通の用に供する道路又は特定高架道路等の上空並びに路面下に設ける建築物について道路内の建築制限の適用を除外することができる。
立体道路制度の適用範囲は、創設当初、新設または改築する自動車専用道路及び特定高架道路等に限られていましたが、その後、社会情勢の変化や多様化する国民のニーズに対応するため、弾力的な運用が行われてきました。
具体的には、下記の経緯で緩和措置がなされてきました。
①国土交通省の通達等により、平成17年に歩行者専用道路等への制度適用が可能となり、平成21年には駅舎等の自由通路への制度適用の推進が図られました。
②平成26年には、首都高速道路等の高速道路の老朽化に対応した迅速かつ計画的な更新事業を推進するため、道路法を抜本改正し、既存道路についても適用範囲に含めることになりました。
③都市の国際競争力の一層の強化等を図るため、特定の地域の一般道路においても、道路空間を活用した都市再生の推進が図られるよう、平成23年及び26年に都市再生特別措置法が改正され、道路と建物の重複利用区域を定めることで、道路内の建築制限の緩和が可能となりました。さらに、平成28年には、道路法改正により、道路の立体的区域を決定する場合の国有財産法、地方自治法の行政財産の処分に関する規定を緩和し、都市再生特別措置法の改正により、建築物の道路上空利用が可能な地域が特定都市再生緊急整備地域から、都市再生緊急整備地域全域へ拡充されました。
④平成30年には、都市計画法と建築基準法が改正され、地区整備計画で重複利用区域が設定されたすべての道路で、立体道路制度の適用が可能となりました。(7月15日施行)
なお、令和2年5月に道路法が改正され、交通混雑の緩和や物流の円滑化のため、バス、タクシー、トラック等の事業者専用の停留施設が道路付属物(特定車両停留施設)として認められることとなり、バスターミナル等の整備に立体道路制度の適用が期待されます。